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2010年08月24日

第18回例会報告

2009年11月21日(参加者6名)

例会定例の長編読書会の開催に従い、今回は担当者としてジョン・ディクスン・カーの『火刑法廷』を選択しました。

カーを選んだのは、とりあえず今まで自分が一番よく読んだ作家であることと、ミステリー黄金期の代表的作家の一人の世界を、金沢ミステリー倶楽部のメンバーが、どのように受け止めるかに興味を持ったからでありました。

当日ご参加された方々は、8名。季節柄ご家族にインフルエンザに罹られた方がいらっしゃるなど、厳しい状況の中でしたが、和気藹々の雰囲気で始まりました。

さて、皆さんカーをご存知ではありました。さすがにミステリーファンを標榜される方々です。関心の度合いは様々で、特に若い世代の方にはあまり評判が芳しくありません。これは翻訳小説のネックともいうべき、翻訳文章が日本語として「イマイチ」なものが多く、わが国の作家の作品に比べて、文章力が弱く、読むにも気合を込めづらい、という明らかなハンデに起因します。これは翻訳ものの共通の弱点ですが、さらに、幾つかの欠点の指摘がありました。

カー作品は、メインたるべき「ミステリーの謎解き」に至るまでのストーリー展開に冗長な部分があるので、読むのに「だるい」というお説が提示されました。うなずかれる方数名。純粋な謎解きが興味の中心である、という方には、いっそうこの様な「舞台回し」の展開がつらく感じる、というところなど、散々です。

さらに、今回の選択本は、「なんだこの結末」という要素もあり、皆さんには、「読んでよかった」「得した感じ」には程遠い感想を抱かれたご様子です。選者としての力量に、甚だ不十分であることを露呈したところです。申し訳ございません。

やはり、現在の世界に通じる舞台に題材を得ている作品に、関心が深まるのが当然であり、黄金期と称された時期の作品とはいえ、今から70年近く前に書かれたものは、現代世界に舞台を置いた作品だとしても、本日現在の読者にとっては古色蒼然の感はぬぐえないかもしれません。

この視点からすれば、1940年代が黄金期、という事自体が、チャンチャラおかしい話です。やはり、今こそが価値がある、のも分かりますし、まぁ、ノスタルジックな味わいも行き過ぎると不味くなるのは当たり前の話です。

翻訳文章については、早川文庫版の文章のほうが、ポケミスに比べて翻訳時期が今に近いため、言葉遣いなどで、文庫版のほうが読みやすいというご意見もありました。これは私にとっては反対の視点でしたので、改めて私の時代が過ぎ去っていることも痛感した次第です。

いずれにしても、翻訳作品は、日本人作家の作品よりも、会話文章などでの味わいに欠けるなど、ハンデを持つことは皆さん共通の感想と思いました。

『火刑法廷』作品自体は、「超自然」の要素を入れた、カーとしてもチャレンジな一品で、この部分の理解、好み、に分かれるところが大きい作品だということは、今回の会合でも一致しました。

カーの文章は、皆さんのご指摘のとおり、「遊びの多い」文章だと思います。カーは、頭で描く作家だと思います。

その結果、思いついたサービス精神の発露は、書かないではいられない、というところもあるのではないでしょうか。

この傾向は、カーが好む中世を舞台にした作品では、特に顕著に現れます。読者にすれば、「おーい、どこに向かってるんだよ」と言いたくなる脱線振りも散見されます。

『火刑法廷』でも、魔女伝説などの部分や、登場人物の背景説明の部分ではガンガン多方面に展開していく部分がありますので、こういった作風展開は、読者にとっては好みの部分になると思います。自分の感覚に合うか合わないかの作品評価の要素ですね。

骨子の粋を味わうには、「カーは短編こそ見るべきものがある」というご意見を出された方もいらっしゃるくらい

です。これは、私もそう思うと同時に、「体力が自分にあれば、イカツク、しつこい長編も味わえる」とも思うのです。

長々と申し述べましたが、今回の感想としては、「カーは文体では古くなっている。だけど殺人の設定などの要素はさすがだ。」「翻訳もの地位が弱くなっているのは、日本語作品のレベルが高く、翻訳フィルターを通さなければならない部分、魅力が薄れるので、ある意味で当たり前だ」という帰結のように思います。

カーというミステリー作家の認識は、他の作品も含めて論じられるべきでしょうし、その中には、皆さんのフィルターに引っかかるものが有ると思います。またの機会に味わっていただければと思います。

『火刑法廷』自体は、・・・・まぁ、カー好きだけで論じたとしても、是々非々意見は分かれる作品だと思います。

ご参加いただいた皆様、有難うございました。(H氏)

 

(補記)そこまで不満だらけの例会ではなかったです。
『火刑法廷』は悪夢のようなラストに至るまで緻密に組み立てられたカーの代表作です。
それは皆さんの認めるところだと思います。

第三の真相がなかなか面白くて、実際カーが晩年の作品に書いているのはカーの遊び心を感じさせます。

ただ『火刑法廷』自体より、訳のこととミステリが文学者から低い地位にみられているということで話が盛り上がりました。

投稿者:keita2at 22:06| お知らせ | コメント(0) | トラックバック(0)

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