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2012年03月16日

冬の鬼

2011年4月23日道尾秀介さんの短編集『鬼の跫音』の中の「冬の鬼」を合評しました。
2011年度第一回目の例会でした。

道尾さんは2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー、『向日葵の咲かない夏』が本格ミステリとして注目を浴び、文庫版が70万部を超えるベストセラーになりました。4度直木賞候補になり、2010年5回目の『月と蟹』で受賞しました。今回は2009年の短篇集『鬼の跫音』の中から「冬の鬼」を読んで皆さんの感想をお聞きしました。

・1月8日からスタートして、日が戻っているのでどんなストーリーかと思ったが、1月1日の日記がオチになっていた。時間があれば後から読んでみたい。
・日付に気付かずスラスラ読んだ。どんどやきに1人で行ったり、身体を洗ってやったりという場面が後でなるほどと思った。Sはストーカーっぽい。
・日付が逆になっていて、最後カーと来る。1月8日の鬼の跫音というのが、逃れられていない。ずっと聞きづける。ここまでしてくれる人がいるとは。『向日葵』読んだけど、全然意味わか
らなかった。
・結果がわかってから読み返すと、伏線が意外な意味を持ち、
違う意味になっている。1月9日以降どうなるのか。
・1月1日から読んでいくと1月8日はとてもこわい。聞きたくないこととは何か?後からわかるという仕組みが面白い。
・今読んでもわからない。途中から逆行していることに気付いた。『向日葵』止まっている。読みやすい文だと思った。
・達者で頭がいい作家。文が磨いて書いてあり、実力のある人だと思う。トラップが仕掛けられているが、(略)の箇所がフェアでない。1月8日は何?この先はおどろおどろしい悲劇に?乱歩になる?S殺して死骸と暮らす?
・初め読んで谷崎潤一郎かと思いながら、あれあれあれ。日付に気付かなかったが、後から読み返して気付いた。ここでは言えない漫画を思い出した。
・『告白』は自分勝手な主張がされていたと思ったが、これは私小説に不気味な粉を振ってホラー仕立てにしてみたという感じ。怪しい感覚を描くのが流行りなのか。人間を描いているか。
・跫音(あしおと)、鴉の漢字が何か意味があるのか。(跫は恐を連想させる?鴉も禍々しい感じ?)
・音が一番こわい
等々感想が話されましたが、ネタバレになるのでこれくらいで。ちなみに女性の一人称の日記なので女性の方々にいかがです
かとお聞きしたら、誰も好きではなかったけれど、上手だというご意見でした。最後に1月8日の日記の解釈に関していろいろな意見が出ました。その中でCさんの1月7日の記述から導いた一つの結論にかなり説得力があり、それでスッキリして散会となりました。
ちなみに担当はこれを読んでクリストファー・ノーラン監督の映画「メメント」を思い出しました。ストーリーを終わりから始まりへ、時系列を逆向きに映し出していき、意外な真実が暴き出されます。また夢野久作の「瓶詰地獄」も無人島からの手紙が時系列によりインパクトを与えるという点で思い出されました。
道尾さんのミステリは騙しのテクニックが見事で、『向日葵の咲かない夏』『シャドウ』『片耳の猿』『ラットマン』『カラスの親指』と是非読んで騙されていただきたいと思います。本格好きな方には怪奇現象もすべて論理的に解決される『骸の爪』がオススメです。

投稿者:keita2at 23:02| お知らせ | コメント(1) | トラックバック(0)

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◆この記事へのコメント:

縁あってこの「鬼の足音」を手に取り、「冬の鬼」を読んでみたのですが、上手く自分の中で整理ができず納得には至れませんでした。なので記事にあるCさんの結論がとても気になります。どうか教えては頂けないものでしょうか。

投稿者:さへき: at 2018/01/04 00:10

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