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2012年03月26日

毒入りチョコレート事件

アントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』は
多重推理物の先駆的なミステリです。
6月18日に金沢ミステリ倶楽部の第35回例会報告を開催し、
『毒入りチョコレート事件』を合評しました。
参加者は11名+見学2名+中学生1名。

◆34年ほど前に購入して読んだが、内容を忘れていて再読した。
わかりづらい。読みづらい。最初の100ページ難航した。
バークリーは昔『毒チョコ』くらいしか訳されていなくて、それを読んで「つまらない作家」だと思っていた。
しかし最近バタバタ翻訳され、見直されてきた。『絹靴下殺人事件』はシェリンガムが活躍するミステリで、CSIのドラマにしてもいいくらいストーリー展開も速い。
バークリーは面白いと思った。
『毒チョコ』の6人6通りの解決というのは、必ずこれという真相ではないので、面白い。
◆最初なかなか入っていけなかった。
推理に入るといろんな展開があり、楽しめた。
イギリスは紳士淑女だが、意外な裏が暴かれていくのに惹きつけられた。
6人の推理を表にしないとと思ったら、最後に表が出てきた。
ラストの予想はついたが、グレーな部分を残して終ったのが良かった。
◆外国の翻訳物をあまり読まないので、頭に入らなかった。
1人1人の推理が面白く、まさかの結末だった。
もう何年かしてもう1回読みたい。バークリーの違う作品も読んでみたい。
◆外国人の名前が難しい。ダマーズがかっこいいと思った。
いつの時代でも「男はしょうもない、女はこわい」と感じた。
◆「偶然は裁く」を先に読んでいた。その短編の解答のままで良いと思う。
昔『金田一さん、あなたの推理は間違いだらけ』というあら探しの本がヒットしたが、視点を変えるとこんな解答、あんな解答が出てくるというのが面白いと思った。
しかしやはり短編の方がすっきりする、と思う。
しかし『毒チョコ』のラストがさえないおじさんがみんなをギャフンと言わせるのが面白い。(←コロンボに通じる)
◆1回目読んだ時はそんなに真新しいとは思わなかった。
『ジャンピングジェニー』を読んで、シェリンガムのあまりにも探偵らしくない行動に、どうかしてると思った。
その後『毒チョコ』の2回目を読むと、やはりシェリンガム、へんだと思った。
実在の犯罪事件を取り入れているので、細かい注釈があったらいいと思った。
◆ミステリを書く時、解決を決めて、手掛かりを用意して、どう論理展開させ、説得力を持たせるかと考えるが、
『毒チョコ』はあまり説得力がなかった。
そのわりにまわりがそうだと納得するのが笑えた。ブラッドレーが自分を犯人と推理するのも面白かった。
最初に手掛かりがかいてあれば良かった。
(当時のミステリは後から手掛かりを書く。それが特にクイーン以降フェアに書くようになった)
◆外国人の人物がわからない。息抜きしないと読めなかった。
探偵が「これだけ楽しませてくれた犯人に乾杯」と言うが、頭おかしいと思った。
登場人物達が何か言われるとすぐカチンと来るので、心が狭い、人間的に小さいと思った。
実際の犯罪事件の犯人に喩えた文が出てくるがわからなかった。
◆新しい手掛かりが次々出てくる。『聯愁殺』(西澤保彦)もそんな感じだが、最後は違った。
◆バークリーは初めて読んだが、複雑ですぐついていけなかった。
犯罪研究会の人が自分が犯人だという推理が面白かった。
犯人はどうなったのかと思った。
◆ロジャーの立ち位置がわからない。手掛かりが少ない。
スピーチ口調で書かれているのでわかりにくい。
結局犯人は誰か、謎とは何なのかを書いている。
◆特定のクラブを作って所属するのは外国でよくある。
メンバーを互いに批判しながらいる。(金沢ミステリ倶楽部は…)こういう終わり方は余韻があって、1930〜40年代当時いくつかの作品にも見られる。
◆『ピカデリーの殺人』でチタウィックが解決してと書かれているので、ブランドなどの別解答は書かれているが、この結末がバークリーの意図した結末。
『第二の銃声』にダマースの名前が出てきて、ブラッドレーは登場する。
『毒チョコ』だけ読むと、シェリンガムのことがよくわからないが、他の作品を読めばシェリンガムはバークリーの作った名探偵ならぬ迷探偵であることがわかる。
それまでのミステリでは神のごとき名探偵が手かがりを元に事件を解決するが、それが本当に唯一の正解なのか?ということから生まれた多重解決(推理)ミステリの先駆的な作品で最近のミステリ(たとえば古野まほろ)に対しての影響が大きい。
『毒入りチョコレート事件』はもしかしたらバークリーの最初に読むべきミステリではないかもしれません。
基本的に出版された順番に読むと、シェリンガムの名(迷)探偵ぶりと、バークリーの考え抜いたプロットのミステリを楽しめます。
バークリーは探偵小説を書きながら、その中で探偵小説の批判をしたと言えます。
『毒チョコ』以外の作品では、シェリンガムは自分の推理を仲間とディスカッションしながら(読者に包み隠さず)推理していくので、必然的に多重推理になってくるのだと思います。
是非他の作品も読んでみて下さい。
個人的には特に『ジャンピングジェニー』を。

投稿者:keita2at 22:49| お知らせ | コメント(0) | トラックバック(0)

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